家族性高コレステロール血症(FH)とは?

家族性高コレステロール血症(FH)は、遺伝的な病気で、血液中のLDL(悪玉)コレステロールが高くなるなど、以下の特徴があります。

  • 遺伝的な病気で、若い時からLDL-コレステロールが高値
  • 早期動脈硬化により冠動脈疾患(狭心症、心筋梗塞など)などを早期に発症するリスクが高い
  • スタチンなど薬物療法を早期に行うことにより、動脈硬化の進行を軽減することができる

この病気では、若いうちから動脈が硬くなりやすくなります。主な特徴は、高LDLコレステロールの他に、若くして起こる冠動脈疾患(狭心症、心筋梗塞など)や、皮膚や腱に黄色いしこりができることです。

家族性高コレステロール血症は早期発見、早期治療が大切です。早期に治療を始めると、動脈が硬くなるのを防ぐことができます。日本では、一般の人の中で約300人に1人がこの病気を持っています。冠動脈の病気になる人の中では約30人に1人、高LDLコレステロールの重症な人の中では約15人に1人が家族性高コレステロール血症です。

大部分の患者さんでは、若いころからLDLコレステロールが高いこと以外、特に症状はありません。一部の患者さんでは、コレステロールが沈着した黄色っぽい隆起(皮膚黄色種と呼ばれます)が、手の甲、膝(ひざ)、肘(ひじ)、瞼(まぶた)などに見られます。LDLコレステロールは通常、肝臓で大部分が処理されます。しかし、この病気の患者さんでは、血液中のLDLコレステロールを肝臓で処理できないか処理する能力が低いため、その血液中濃度が上昇し、血管壁にたまって動脈硬化が進みます。

動脈硬化の発生と進行

心筋梗塞の発症は、男性では20歳代から、女性では30歳代から始まります。このように、若い年齢で心筋梗塞を中心とした動脈硬化性疾患を起こすのが特徴です。重症の場合、幼児期に心筋梗塞を発症することもあります。このような体質が遺伝するので、親、兄弟、叔父、叔母、祖父母、子供など、血のつながった方の中にも同じようにコレステロールが高く、心筋梗塞、狭心症などの心臓病が発症する人が多いことも特徴です。

診断

成人の家族性高コレステロール血症(FH)の診断は以下のようになります。家族歴が非常に重要となります

成人(15歳以上)家族性高コレステロール血症の診断基準
【1】高 LDL-C 血症(未治療時の LDL-C 値180 mg/dL 以上)
【2】腱黄色腫(手背、肘、膝等またはアキレス腱肥厚)あるいは皮膚結節性黄色腫
【3】FH あるいは早発性冠動脈疾患の家族歴(第一度近親者)

  • 遺伝的な病気で、若い時からLDL-コレステロールが高値
  • 他の原発性・続発性脂質異常症を除外した上で診断する。
  • すでに薬物治療中の場合、治療のきっかけとなった脂質値を参考にする。
  • アキレス腱肥厚は X 線撮影により男性8.0 mm 以上、女性7.5 mm 以上、あるいは超音波により男性6.0 mm 以上、女性5.5mm 以上にて診断する。
  • 皮膚結節性黄色腫に眼瞼黄色腫は含まない。
  • 早発性冠動脈疾患は男性55歳未満、女性65歳未満で発症した冠動脈疾患と定義する。
  • 2項目以上を満たす場合に FH と診断する。
  • 2項目以上を満たさない場合でも、LDL-C が250 mg/dL 以上の場合、あるいは 2 または 3 を満たし LDL-C が160 mg/dL以上の場合は FH を強く疑う。
  • FH 病原性遺伝子変異がある場合は FH と診断する。
  • FH ホモ接合体が疑われる場合は遺伝学的検査による診断が望ましい。診断が難しい FH ヘテロ接合体疑いも遺伝学的検査が有用である。
  • この診断基準は FH ホモ接合体にも当てはまる。
  • FH と診断した場合、家族についても調べることが強く推奨される。

(成人家族性高コレステロール血症診療ガイドライン2022より)

治療について

治療は食事、運動、薬物療法を組み合わせて行います。

《食事の改善》

まず、食事を見直すことが大切です。コレステロールが多く含まれる食品を減らし、野菜や果物、魚など健康に良い食品を多く摂るようにします。具体的には、以下のような食事が推奨されます。

  • 野菜や果物をたくさん食べる。
  • 魚、特に青魚を食べる。
  • オリーブオイルやナッツなど、良質な脂肪を摂る。
  • 加工食品や揚げ物、脂っこい肉を控える
栄養バランスのとれた食事

《運動》

定期的な運動も大切です。週に少なくとも150分、中等度の有酸素運動を行うことが推奨されます。例えば、ウォーキング、ジョギング、水泳などです。
運動を続けることで、体重管理やコレステロール値の改善が期待できます。

定期的な運動

《投薬》

家族性高コレステロール血症の治療において、薬物療法は非常に重要です。

『スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)』
スタチンは、コレステロール生成を抑える薬です。最も一般的に使用される薬物であり、効果的にLDLコレステロールを低下させることができます。家族性高コレステロール血症ではこのスタチンが第1選択となります。

『エゼチミブ』
エゼチミブは、小腸でのコレステロール吸収を抑える薬です。スタチンと併用することで、LDLコレステロールのさらなる低下が期待できます。スタチンが十分に効果を発揮しない場合や、副作用でスタチンが使えない場合に使用されることがあります。

『PCSK9阻害薬』
PCSK9阻害薬は、非常に高いLDLコレステロール値を効果的に低下させる新しいタイプの薬です。PCSK9というタンパク質を阻害することで、肝臓がLDLコレステロールをより多く取り込むようにします。スタチンとエゼチミブの併用でもLDLコレステロールの目標値に達しない場合にはPCSK9阻害薬の使用を考慮します。

監修:医療法人みなとみらい副理事長/みなとみらいクリニック院長

山川正 先生

掲載日:2024年8月23日